安心してリハビリを進めていただくために、本記事では脳卒中のリハビリに関する自主トレを紹介していますが、これはすべての患者様に一律に適合するものではありません。

安全で効果的なリハビリのためには、個々の回復ステージに合わせた専門家の判断が不可欠です。本記事の内容を試される前に、担当の医療従事者へ内容をご共有、ご相談いただくようお願いします。

なお、実践に伴う体調不良などの責任は負いかねますのでご了承ください。

「最近、よくならなくなった気がする」

脳卒中後のリハビリを続けていると、誰しもどこかで感じる瞬間です。回復が止まったように見えるこの状態を「プラトー(停滞期)」と呼びます。

でも、これはあなたの体の限界ではありません。

発症から平均7年が経過した「プラトーに到達した」とされる方々に高強度の歩行訓練を行ったところ、1日の歩数と歩く効率が大きく改善したという研究があります(Moore et al., Stroke 2010)。

停滞の正体は、訓練の量や質が足りていないこと、自信を失っていること、見えないうつの影響。つまり「やり方を変えれば、変わる」可能性がある現象なのです。

この記事では、ブルンストロームⅣ期(動きを別々にコントロールできるようになり始める段階)の方に向けて、自宅でできるトレーニングをお伝えします。


ブルンストロームⅣ期ってどういう時期?

Ⅲ期までは、足を動かそうとすると「股関節も膝も足首も全部一緒に動いてしまう」という、決まったパターンでしか動けませんでした。

Ⅳ期に入ると、このパターンから少しずつ抜け出せます。たとえば、こんな動きが出てきます。

  • 椅子に座ったまま、踵を椅子の下まで引ける(膝だけを曲げられる)
  • 踵を床につけたまま、足首だけを上に上げられる

これが「分離運動の芽生え」です。同時に、筋肉のこわばり(痙縮)はⅢ期のピークから少しずつ落ち着いてきます(Wissel, Neurology 2013)。

Ⅳ期は「動きの質を磨く段階」。Ⅱ期・Ⅲ期とは目標が大きく変わります。


Ⅱ期・Ⅲ期からの大きな変化

ステージ主な目標立位歩行の自主トレ
Ⅱ期動きを引き出す行わない
Ⅲ期共同運動を破る行わない
Ⅳ期動きの質を磨く行う(ただし質を厳密にチェック)

Ⅳ期からはいよいよ立位歩行のトレーニングに踏み込みます。ただし「歩けるからOK」と質を無視すると、悪い動き方が脳に定着してしまいます。

一度固定された悪いパターンは、後から修正するのが非常に難しい。これが研究で明らかになっています(Cirstea & Levin, Brain 2000)。

つまりⅣ期の本質は「立位歩行を含める。でも、動きの質を厳密にチェックする」という二重戦略です。


進む人と停滞する人を分けるもの

研究から見えてきた「進む人」の特徴は、体の機能だけではありませんでした。

「自分は変われる」という確信(自己効力感)と歩行能力の2つだけで、運動の継続率の80%が説明できたという報告があります(Caetano, Stroke Res Treat 2020)。

さらに、脳卒中後のうつは約3人に1人に発生し(Hackett, Int J Stroke 2014)、回復を1.5〜2倍遅らせます。

「やる気が出ない」「何をしても意味がない」と感じる状態が続くなら、それは怠けではなく、医学的な症状の可能性があります。うつのスクリーニングを受ける価値は十分にあります。

小さな成功体験を積み重ねること、家族が「もっと頑張って」ではなく「ここが良くなってきたね」と具体的に伝えること。心理面の支えが、体の回復にも直結します。


自主トレの4つの原則

原則理由
最大努力をしない力みは共同運動と痙縮を強めます
息を止めない息こらえは血圧上昇と連合反応を引き起こします
代償動作を放置しない鏡やスマホ動画で動きの質をチェック
健側だけに頼らない麻痺側を意識的に使い、「使わない癖」を防ぐ

4つの「悪い動き方」をチェックする

Ⅳ期で最も警戒すべきは「歩けるようにはなったが、悪い歩き方が固定される」ことです。代表的な4つの代償動作と対策を見ていきます。

① 反張膝(はんちょうひざ) 膝が逆方向にそる

立つときに膝が後ろ側にカクッとそる現象です。脳卒中の方の40〜60%に発生します(Cooper, Physiother Res Int 2012)。

主な原因はふくらはぎのこわばりと、足首が十分上がらないこと。

自宅でできる対策:

練習やり方回数
部分スクワット壁や椅子を支えに、膝を5〜30度曲げる範囲で。鏡で「膝がやや曲がった状態」を確認10回×3セット
踏み台昇降10cm程度の踏み台への昇り降り5〜10回×2セット

② 分回し歩行(足を外側にぐるっと振り回す)

足首が上がらず、膝も十分曲がらないと、足を前に出すために外側に振り回す動きが出ます。

根本的な対策は「骨盤を直すこと」ではなく、足首の動きと膝の曲がりを改善することです(Awad, Am J Phys Med Rehabil 2017)。

自宅でできる対策:

練習やり方回数
ペルビッククロック運動骨盤を時計の文字盤に見立てて、12時→6時、3時→9時方向にゆっくり動かす10回×3方向
ステップマーカー歩行床にテープで20〜30cm間隔の目印を作り、1マスずつ踏み出す10分

③ 骨盤の引き上げ(腰をひねって足を持ち上げる)

お尻の横の筋肉(中殿筋)が弱いと、足を振り出すときに骨盤ごと持ち上げる動きが出ます。

自宅でできる対策:

練習やり方回数
横向き足上げ横向きに寝て、麻痺側の足をゆっくり上に持ち上げる10〜15回×2〜3セット
セラバンド横歩きセラバンドを膝下に巻いて、ゆっくり横に歩く10歩×3往復

④ 内反尖足(足先が内向きに下がる)

短時間のストレッチだけでは、関節の可動域はわずか2度程度しか改善しないことがわかっています(Katalinic/Harvey, Cochrane 2017)。長時間のストレッチ、運動療法、装具を組み合わせる必要があります。

自宅でできる対策:

練習やり方回数・時間
座位タオルストレッチ床に座り、タオルを足の裏にかけて手前に引く30秒×5回、1日2回
立位ランジストレッチ壁に手をつき、麻痺側を後ろに引いて踵をつけたまま体を前に倒す1分×3回
傾斜板立位5〜10度の傾斜板の上に立つ10〜20分

短下肢装具がある場合は、屋外や長距離では着用し、自宅内の短距離では段階的に外して足裏の感覚を高めます。


最も重要な課題:足首を上に上げる練習

Ⅳ期では「座った状態(膝が曲がった状態)では足首を上げられるが、立った状態(膝が伸びた状態)ではできない」というパターンが典型的です。

これは、ふくらはぎの奥にあるヒラメ筋という筋肉が、姿勢によって硬さが変わるためです。

練習やり方回数
座位での足首上げ椅子に座り、膝を90度に曲げて、踵をつけたまま足先を引き上げる10〜15回×3セット、毎日
タオルキャッチ床に置いたタオルを足の指でたぐり寄せる1分×3セット
立位での前後重心移動体を少し前に傾け、踵荷重 → つま先荷重 → 踵に戻す10回×3セット

大切なのは、立った状態でうまくいかなくても焦らないこと。座って確実にできるようになることが先です。

足首を上に上げる力(背屈筋力)は、歩行速度を決める独立した要因であり(Dorsch et al., Arch Phys Med Rehabil 2012)、すねの筋肉を選択的に鍛える訓練は痙縮を悪化させずに歩行速度を改善することが示されています(Ng & Hui-Chan, Stroke 2007)。


痙縮の程度でトレーニングが2パターンに分かれる

Ⅳ期では、痙縮(筋肉のこわばり)が「まだ残っている方」と「ほとんど落ち着いている方」で、取り組み方が大きく変わります。

パターンA:痙縮が残っている場合

訓練の順序が重要です。

  1. ポジショニングで筋緊張を整える
  2. ストレッチで筋肉を伸ばす
  3. 選択的な運動に入る
ポイント詳細
ストレッチの時間ふくらはぎ・太もも裏・内ももを30〜40秒×3回ずつ
温めるホットタオルなどで10〜20分温めてからストレッチすると効果的
運動の強さBorgスケールで11〜13(「楽」〜「ややきつい」)
動作のペース3秒で上げて3秒で下ろす

「ストレッチ→ゆるめる→意識的に動かす」の順序が、専門家の意見でも推奨されています(Bavikatte, 2021)。

パターンB:痙縮が軽い場合

より積極的な訓練に踏み込めます。4つの柱が中心です。

内容
反復課題練習1日300回が目標。リーチ、歩行、立ち上がりなど(Birkenmeier, NNR 2010)
筋力トレーニング「最後の3〜5回がきつい」程度の負荷で8〜12回×2〜3セット、週3回
有酸素運動ウォーキングや自転車エルゴメーター
高強度歩行訓練3分の速歩+1分のゆっくり歩きを6セット

筋力トレーニングのメニュー例:

種目回数
椅子からの立ち上がり30回
踏み台昇降20回
セラバンドで足を横に上げる30回
踵上げ30回
セラバンドで足首を上げる15回

慢性期の高強度歩行訓練が強く推奨されており(Hornby, ANPT CPG 2020)、特に高強度のインターバル歩行訓練は、普通の訓練より歩行速度と距離を大きく改善したという報告があります(Boyne, Stroke 2022)。


1日の自主トレスケジュール例

パターンA:痙縮が残っている場合(計30〜40分)

時間帯内容時間
朝(起床後)ポジショニング → ふくらはぎ・太もも裏・内もものストレッチ各30〜40秒×3回約10分
午前座位での足首上げ10〜15回×2 → 座位での膝伸ばし10回×2 → 骨盤前後傾・左右移動 各10回 → 部分スクワット10回×215〜20分
午後ミラーセラピー20分、または運動イメージ15分15〜20分
夕方ふくらはぎストレッチ30秒×5回 → 椅子座位で足首を上げた姿勢を5分保持約10分

パターンB:痙縮が軽い場合(計60〜75分)

時間帯内容時間
朝(ウォームアップ)軽い足踏み → 関節を動かす約5分
午前(筋力トレーニング・週3回)椅子立ち上がり30回 → 踏み台昇降20回 → セラバンド股関節外転30回 → 踵上げ30回 → セラバンド背屈15回15〜20分
午前〜昼(課題練習)リーチ → 障害物歩行 → 方向転換 → サイドステップ → 段差昇降約20分
午後(バランス+歩行)重心移動・片脚立位10分 → インターバル歩行(速歩3分+緩歩1分×6セット)25〜30分
夕方(メンタル+クールダウン)運動イメージまたはミラーセラピー10分 → 軽いストレッチ5分約15分

いずれのパターンも、週5日を基本に、週1〜2日は休養にあてます。


すぐに中止すべきサイン

以下のサインが一つでも出たら、即座にトレーニングを中止してください。

サイン内容
連合反応が頻発する健側の手や腕に力みが入り続ける
痙縮が急に強くなった普段より明らかに硬い
クローヌスが連続して止まらない足首がぴくぴく繰り返す
痛みが出たNRSで4以上
めまい・吐き気体調不良のサイン
息が止まる・会話できないほどきつい強度オーバー

5分休んでから、強度を3割下げて再開してください。


やってはいけないことリスト

NG行動理由
力みや息止めを伴う最大努力共同運動・痙縮を強め、血圧も上がる
痛みを我慢してのストレッチ筋緊張が逆に上がる
素早く反動をつける他動運動痙縮を刺激する
装具なし・見守りなしの歩行練習代償動作が固定される
健側だけで生活する習慣麻痺側の「使わない癖」が固定
代償を放置して歩行速度だけ追う悪い動き方が定着
疲労困憊まで続ける訓練過用症候群のリスク
「Ⅳ期は代償歩行で十分」と諦める神経の変化の機会を逃す

変化を「見える化」する

自分の変化を記録することが、継続のカギになります。

毎週測ること

項目測り方
10m歩行速度ストップウォッチで快適速度を計測
椅子から5回立ち上がる時間ストップウォッチで計測

毎月チェックすること

項目チェック方法
痙縮の主観「先月より柔らかいか?」
転倒の回数カレンダーに記録
気分の変化「今月は前より明るくいられたか?」
1日の歩数歩数計やスマートウォッチで記録

脳卒中後の方は、健康な高齢者に比べて1日の運動量が半分以下にとどまるという報告があります(English, Phys Ther 2016)。現在の歩数から30%ずつ目標を上げていくのも、現実的でおすすめです。


「もう変わらない」は科学的に正しくない

慢性期(発症から時間が経った時期)でも、脳の変化する力は維持されています(Mang CS, Phys Ther 2013)。

英国の脳卒中ガイドライン2023は「脳卒中後いつの時点でもリハビリの効果が見込める」と明記しており(National Clinical Guideline for Stroke 2023)、Wardの研究では3週間の集中療法で臨床的に意味のある改善が観察されています。

プラトーの正体は、「評価のしかた」「訓練の質と量」「自信の低下」「見えないうつ」が作り出す「見かけの天井」です(Page, Arch Phys Med Rehabil 2004)。

やり方を変えれば、景色は変わります。

「今すぐ完璧に歩ける」ことではなく、「6か月後に分離運動の質が上がっている」ことを目指す。その積み重ねが、Ⅳ期の壁を越える最善の戦略です。


参考文献

  1. Moore JL et al. “Locomotor training improves daily stepping activity and gait efficiency in individuals poststroke who have reached a ‘plateau’ in recovery.” Stroke 2010. AHA Journals
  2. Li S, Francisco GE. “New insights into the pathophysiology of post-stroke spasticity.” Front Neurol 2019. Frontiers
  3. McPherson JG et al. “Progressive recruitment of contralesional cortico-reticulospinal pathways drives motor impairment post stroke.” J Physiol 2018. Wiley
  4. Caetano LCG et al. “Self-efficacy and physical activity participation after stroke.” Stroke Res Treat 2020. PubMed
  5. Hackett ML et al. “Part I: Frequency of depression after stroke.” Int J Stroke 2014. Sage Journals
  6. Cirstea MC, Levin MF. “Compensatory strategies for reaching in stroke.” Brain 2000. Oxford Academic
  7. Dorsch S, Ada L, Canning CG et al. “The strength of the ankle dorsiflexors has a significant contribution to walking speed.” Arch Phys Med Rehabil 2012. Archives of PMR
  8. Ng SS, Hui-Chan CW. “Transcutaneous electrical nerve stimulation combined with task-related training improves lower limb functions.” Stroke 2007. AHA Journals
  9. Cooper A et al. “Genu recurvatum in acute stroke: incidence and association with physical impairments.” Physiother Res Int 2012. Wiley
  10. Awad LN et al. “A soft robotic exosuit improves walking in patients after stroke.” Am J Phys Med Rehabil 2017. LWW Journals
  11. Katalinic OM, Harvey LA et al. “Stretch for the treatment and prevention of contractures.” Cochrane Database Syst Rev 2017. Cochrane Library
  12. French B et al. “Repetitive task training for improving functional ability after stroke.” Cochrane Database Syst Rev 2016. Cochrane Library
  13. Hornby TG et al. “Locomotor Training Guideline for Persons with Chronic Stroke.” ANPT CPG 2020. PubMed
  14. Boyne P et al. “Higher-intensity interval training versus moderate-intensity training in chronic stroke.” Stroke 2022. AHA Journals
  15. Birkenmeier RL et al. “Translating animal doses of task-specific training to people with chronic stroke.” NNR 2010. Sage Journals
  16. Dunsky A, Dickstein R et al. “Home-based motor imagery training for gait rehabilitation.” Arch Phys Med Rehabil 2008. Archives of PMR
  17. Page SB et al. “Reconsidering the motor recovery plateau in stroke rehabilitation.” Arch Phys Med Rehabil 2004. Archives of PMR
  18. Mang CS et al. “Promoting neuroplasticity for motor rehabilitation after stroke.” Phys Ther 2013. Oxford Academic
  19. Royal College of Physicians. National Clinical Guideline for Stroke 2023. strokeguideline.org
  20. Thijs L, Verheyden G et al. “Trunk training for improving activities after stroke.” Cochrane Database Syst Rev 2023. Cochrane Library
  21. English C et al. “Physical activity and sedentary behaviors in people with stroke living in the community.” Phys Ther 2016. Oxford Academic
  22. Lanza MB et al. “Effect of hip abductor strengthening in gait of people with hemiparesis.” Topics Stroke Rehabil 2023. Sage Journals

このページの内容は情報提供を目的としています。実際のリハビリ内容については、担当の理学療法士または医師にご相談ください。

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悠リハ
理学療法士/生活期脳卒中リハビリ専門。脳卒中専門病院の回復期リハビリ病棟と訪問リハビリで、臨床5年以上にわたり脳卒中の方とご家族に関わってきました。「退院してからが本当のスタート」という現場の実感をもとに、自宅でできる自主トレ、ご家族向けの介助の工夫、リハビリの考え方を発信しています。