安心してリハビリを進めていただくために、本記事では脳卒中のリハビリに関する自主トレを紹介していますが、これはすべての患者様に一律に適合するものではありません。

安全で効果的なリハビリのためには、個々の回復ステージに合わせた専門家の判断が不可欠です。本記事の内容を試される前に、担当の医療従事者へ内容をご共有、ご相談いただくようお願いします。

なお、実践に伴う体調不良などの責任は負いかねますのでご了承ください。

「足が動くようになったのに、歩き方がどんどんぎこちなくなる気がする」

脳卒中後のリハビリで、多くの方が感じる矛盾です。動くようになったから頑張って動かす。でも、頑張るほど足がつっぱって、変な動き方が固まっていく。

これはブルンストロームⅢ期(Br.Ⅲ)に特有の現象で、神経科学的にはっきりした理由があります。動かせるようになったタイミングこそが、悪い動き方を脳に覚え込ませてしまう「最大の落とし穴」なのです。

この記事では、Br.Ⅲ期の方が自宅で安全に、痙縮(筋肉のつっぱり)を悪化させずに、Ⅳ期以降への確かな土台を作るための自主トレを、研究と各国ガイドラインに基づいてお伝えします。

結論を先にお伝えすると、自主トレの主役は次の5つです。

  1. 痙縮のピーク期を乗り切る朝のストレッチ
  2. 足首・膝・股関節の選択的な動かし方
  3. 体幹と骨盤のコントロール
  4. 条件を整えた立ち上がり練習
  5. ミラーセラピーと運動イメージ

そして立位歩行の練習は、自主トレから外す。これがⅢ期の長期予後を最も良くする戦略です。なぜそうなのか、ひとつずつ見ていきましょう。


Contents
  1. ブルンストロームⅢ期ってどういう時期?
  2. なぜ「頑張る」と逆効果になるのか
  3. 自主トレの4つの原則
  4. Ⅱ期とⅢ期で、何が変わるのか
  5. 朝の10分が1日を決める。痙縮のピーク期を乗り切るストレッチ
    1. 最優先① ふくらはぎのタオルストレッチ
    2. 最優先② 太もも裏のストレッチ
    3. 最優先③ 内ももストレッチ
  6. クローヌス(足首のビクビク)が出たときの対処法
  7. ① 足首の練習(Ⅲ期の自主トレで最も重要)
    1. やり方
    2. 注意するサイン
    3. 補助メニュー(座って行う)
  8. ② 膝の練習(共同運動を破る2つの課題)
    1. 座位での膝伸ばし(屈筋共同運動を破る)
    2. うつ伏せでの膝曲げ(伸展共同運動を破る最重要課題)
  9. ③ 股関節の練習(寝た姿勢でシナジーを避ける)
    1. 膝を伸ばしたまま足を上げる(SLR)
    2. 横に足を開く(股外転)
  10. ④ 体幹・骨盤コントロール(Ⅲ期の自主トレで最も投資対効果が高い)
    1. 骨盤の前後傾と左右移動
    2. ブリッジ運動
    3. 座位リーチング(寝た姿勢では引き出せない効果)
  11. ⑤ 立ち上がり練習(条件を整えれば安全)
    1. 5つの条件設定(これを守ってください)
    2. 回数
  12. ⑥ ミラーセラピー・運動イメージ(脳から動かす隠れた主役)
    1. ミラーセラピー
    2. 運動イメージ
    3. 動作観察療法
  13. 1日の自主トレスケジュール例(計30〜50分)
  14. 即座に中止すべきサイン
  15. やってはいけないこと(研究に基づく禁忌リスト)
  16. なぜ歩行練習を自主トレから外すのか
  17. ガイドラインから見ても妥当な戦略
  18. 「もう変わらない」は科学的に正しくない
  19. Ⅲ期の矛盾は「分業」で解く
  20. 参考文献

ブルンストロームⅢ期ってどういう時期?

Ⅲ期は「動かせる、でも思った通りには動かせない」という、もっとも難しい時期です。

具体的にはこんな状態です。

  • 足を動かそうとすると、股関節も膝も足首も全部一緒に動いてしまう(共同運動)
  • 筋肉のつっぱり(痙縮)が発症から1〜3か月でピークに達する
  • 力を入れて頑張るほど、つっぱりも悪い動き方も強くなる

つまり、「動かせる」と「正しく動かせる」の間に、最も深い谷がある時期なのです。


なぜ「頑張る」と逆効果になるのか

脳卒中で「正しい指令ルート」(皮質脊髄路)が傷つくと、脳幹にある「予備のルート」(網様体脊髄路)が代わりに働き始めます。

この予備ルートには厄介な特徴があります。

  • 1本の指令で複数の筋肉を一斉に動かしてしまう(共同運動の正体)
  • 筋肉を興奮させやすくする(痙縮の正体)

つまり、共同運動と痙縮は同じ神経の仕組みから生まれた、表と裏の関係なのです(Li S et al., Front Neurol 2019; McPherson et al., J Physiol 2018)。

力を入れて頑張ると、この予備ルートが強く活性化されます。すると——

  • 健側にまで力みが波及する(連合反応)
  • 共同運動が強くなる
  • 痙縮が増す

頑張れば頑張るほど、悪化するメカニズムがここにあります。

研究では、痙縮の神経成分が発症1〜3か月でピークに達し、6か月の時点でも23〜43%の方に痙縮が残ることが確認されています(Lundström et al., J Rehabil Med 2010; Sommerfeld et al., Stroke 2011)。


自主トレの4つの原則

原則理由
最大努力をしない力みが連合反応・共同運動・痙縮を呼び込む
息を止めない息こらえは予備ルートを興奮させる
体を支えてから手足を動かす立つと共同運動が出やすい。寝た姿勢→座位の順で
共同運動と「逆方向」を狙う普段出にくい動きを選んで選択性を引き出す

Ⅱ期とⅢ期で、何が変わるのか

項目Br.Ⅱ期Br.Ⅲ期
主な目標動きを生み出す動きの選択性を引き出す/共同運動を破る
痙縮の状態出始めピーク
主な訓練ミラーセラピー、運動イメージ、電気刺激自己ストレッチ+座位選択運動+体幹コントロール+ミラーセラピー
抵抗運動通常難しい低〜中強度のみ可能。最大努力は禁忌
自主の歩行練習通常不可避けるべき(悪い動き方が固定化する)
ストレッチ軽度・短時間長時間・高頻度(ふくらはぎ優先)

Ⅱ期は「動きを引き出す」、Ⅲ期は「出てきた共同運動をどう抑えて選択性を乗せるか」がテーマになります。


朝の10分が1日を決める。痙縮のピーク期を乗り切るストレッチ

朝の起床直後は、痙縮が最も強い時間帯です。だから本格的なトレーニングの前に、まず筋肉を整える「ウォームアップ」が必要です。

最優先① ふくらはぎのタオルストレッチ

項目内容
姿勢床に長座位(両足を前に伸ばす)
やり方バスタオルを足の裏にかけて、両手で「すね方向」にゆっくり引く
強度「軽い張り」を感じる程度。痛みが出る手前で止める
時間膝を伸ばしたまま30〜60秒×3〜5セット

膝を完全に伸ばしたとき=ふくらはぎ全体(腓腹筋)、膝を30度くらい曲げたとき=ふくらはぎの奥(ヒラメ筋)が伸びます。両方やると効果的です。

最優先② 太もも裏のストレッチ

項目内容
姿勢仰向け
やり方麻痺側の膝裏にタオルを通して両端を持ち、ゆっくり足を持ち上げる
時間30秒×2セット

Br.Ⅲ期では膝を完全に伸ばすことにこだわらないでください(伸展共同運動を強く誘発します)。

最優先③ 内ももストレッチ

項目内容
姿勢仰向けで両膝を立てる
やり方両膝を外側にゆっくり開く(バタフライポジション)
時間30〜60秒×3セット

ストレッチに関する根拠:1年間の毎日の自己ストレッチを続けたところ、ふくらはぎの筋拘縮指標が31%減り、歩行速度が41%向上しました(Pradines & Gracies, NNR 2019)。短期間では劇的に変わらないが、長期で続けると確実に変わる——これが現時点で最良のエビデンスです。


クローヌス(足首のビクビク)が出たときの対処法

足首が小刻みに繰り返し動く「クローヌス」が出たら、次の手順で対処します。

順番対処
1つま先を持ち上げて、足首を上に向けた姿勢で10〜20秒キープ
2足の裏全体を床に押し付けて、ゆっくり足首を上に上げる
3寒い時期は5分くらい温めてから運動を開始する

速く動かすとクローヌスが出やすく、ゆっくり動かすと抑えられる——これが基本ルールです。


① 足首の練習(Ⅲ期の自主トレで最も重要)

足首を上に上げる力は、歩行速度を決める最重要因子です(Dorsch et al., Arch Phys Med Rehabil 2012)。

すねの筋肉(前脛骨筋)だけを選んで動かす訓練は、痙縮を悪化させずに歩行速度を改善することが確認されています(Ng & Hui-Chan, Stroke 2007)。

やり方

項目内容
姿勢長座位(背中をクッションで支える)、または仰向けで膝下に薄いクッション
動作足の指→足首を「すねに引き寄せる」意識で10秒かけて引き上げ → 3秒キープ → 10秒かけて戻す
回数10〜15回×2セット、1日2回

注意するサイン

以下が出たら、上げる高さを下げるか中止します。

  • 足の指が一緒に曲がる
  • 膝も一緒に曲がる
  • 足首が内側にねじれる
  • クローヌスが連続する

補助メニュー(座って行う)

練習やり方回数
踵接地での爪先上げ椅子に座って踵をつけたまま爪先を上げる15回×2
ゆっくり踵上げ10秒で踵を離す → 10秒で戻す(離心性)5回×2
タオルスクランチ床のタオルを足の指でたぐり寄せて、押し戻す10回×2

② 膝の練習(共同運動を破る2つの課題)

座位での膝伸ばし(屈筋共同運動を破る)

椅子に座ったまま、麻痺側の膝だけをゆっくり伸ばす運動です。

項目内容
姿勢椅子(座面43〜45cm)、足の裏を床につけ、背中は背もたれに軽くつける
動作股関節90度を保ったまま、麻痺側の膝をゆっくり伸ばす(5秒で伸ばす → 3秒キープ → 5秒で戻す)
回数10〜15回×2セット、1日2回
ポイント最大努力ではなく、フルレンジで動かすことを重視

うつ伏せでの膝曲げ(伸展共同運動を破る最重要課題)

項目内容
姿勢うつ伏せ、胸とお腹に枕、両足を伸ばす
動作麻痺側の膝だけをゆっくり曲げる(90度を目標、3秒キープ)
回数10回×2セット、1日1〜2回
ポイント骨盤が浮いたら股関節の代償。骨盤の前面を床に押し付ける

膝を曲げたときに足首が自然に上がってくれば、良いサインです。


③ 股関節の練習(寝た姿勢でシナジーを避ける)

膝を伸ばしたまま足を上げる(SLR)

項目内容
姿勢仰向け、健側の膝を立てる、麻痺側の膝裏に薄いタオル(軽く5度曲げる)
動作足首を上に向けながら、膝を伸ばしたまま下肢全体を15〜30cm持ち上げ、3秒キープ、5秒で下ろす
回数5〜10回×2〜3セット、1日1〜2回
ポイント高く上げず、ゆっくり。息を止めない

横に足を開く(股外転)

段階姿勢やり方回数
1仰向け膝下にタオルを敷いてスライドさせ、膝を伸ばしたまま横に10〜20度開く → 戻す10回×2
2椅子座位両足を床につけたまま、麻痺側の膝を5〜10cm外に開く → 閉じる10回×2〜3

Br.Ⅲでは「仰向け→座位→立位」の順で安全に進めます。立った状態での股外転は屈筋シナジーが混入しやすいため、後回しにします。


④ 体幹・骨盤コントロール(Ⅲ期の自主トレで最も投資対効果が高い)

実はⅢ期で最もコスパが良いのが、この体幹のトレーニングです。

コクランレビュー(68件のRCT、2,567名)で、体幹訓練が体幹機能・立位バランス・移動能力を改善することが確認されています(Thijs, Verheyden et al., Cochrane 2023)。共同運動を引き起こしにくく、痙縮も悪化させないため、Ⅲ期の自主トレの土台として強く推奨されます。

骨盤の前後傾と左右移動

練習やり方回数
骨盤前後傾椅子に座って、腰を反らせる(前傾) → 丸める(後傾)10往復×2セット
左右の重心移動お尻の荷重を麻痺側 → 健側にゆっくり移動、各3秒キープ10往復×2セット

鏡で肩の高さが揃っているか、頭が傾いていないかをチェックします。

ブリッジ運動

項目内容
姿勢仰向け、両膝を立てる(90度)、足の裏を床にしっかりつける
動作お腹を軽くへこませ、骨盤をゆっくり上げる(5〜10cm)、5秒キープ、ゆっくり下ろす
回数10回×2〜3セット

Br.Ⅲ特有の注意点:

  • 麻痺側の膝が外に倒れる → 膝の間にクッションを挟む
  • 足が前にずれる → 踵をお尻の近くに置く
  • 足首が内反尖足になる → 高さを下げる
  • 息を止めない

座位リーチング(寝た姿勢では引き出せない効果)

シンプルだけど強力な課題です。2週間で麻痺側の足の床反力が増加し、立ち上がりが改善することがわかっています(Dean & Shepherd, Stroke 1997)。

項目内容
姿勢椅子に座って両足を床につけ、麻痺側の足を少し前に置く
動作前・斜め前・横に置いた物(コップや本)に、健側の手で腕の長さを超える距離まで届かせる
ポイント戻すときに麻痺側の足の裏が床を押す感覚を意識
回数各方向10回×2セット、1日2回

⑤ 立ち上がり練習(条件を整えれば安全)

「歩行練習は除外」が方針ですが、立ち上がり動作は条件を厳密に守れば、Ⅲ期でも安全に行えます。

コクランレビュー(13件のRCT、603名)で、立ち上がり訓練が動作時間と荷重の対称性を改善し、重大な有害事象がなかったと結論されています(Pollock et al., Cochrane 2014)。

5つの条件設定(これを守ってください)

条件理由
高めの椅子(座面50〜55cm)から始める膝への負担を減らし、伸筋シナジーを最小化
足を膝の真下か、やや後ろに置く足首を上に上げる動きを促し、底屈シナジーを回避
体を十分前に傾けてから立ち上がる(鼻がつま先の上に来るくらい)股関節伸展で立たせず、正しい順序で立つ
手で押さない押す動作は伸展共同運動を強める
座るときは5秒かけてゆっくり下ろすブレーキ筋(離心性収縮)を訓練する

回数

5〜10回×2〜3セット、1日2回。徐々に椅子の高さを下げますが、Br.Ⅲでは座面43cm以下に下げません


⑥ ミラーセラピー・運動イメージ(脳から動かす隠れた主役)

Ⅲ期の最大のジレンマ(動かすほど共同運動が強まる)を回避できる、唯一の方法です。

ミラーセラピー

項目内容
道具30×40cm程度の鏡
姿勢両足の間に鏡を縦に立て、麻痺側を鏡の裏に隠し、健側を鏡の前に置く
動作①足首の上げ下げ、②足の指の曲げ伸ばし、③座位での膝伸ばし、④足首の内外反、⑤座位足踏み
回数各15〜20回×2〜3セット
時間・頻度1回30分、週5日、4〜6週間

鏡像を「自分の麻痺側が動いている」と意識してゆっくり実施。痛み・めまい・違和感が出たら中止します。

根拠:コクランレビュー(62件の研究、1,982名)で、運動機能改善が確認されています(Thieme et al., Cochrane 2018)。

運動イメージ

項目内容
ステップ1リラクセーション3分
ステップ2外から自分が歩く姿を見るイメージ5分
ステップ3一人称視点で、足首を上げる・歩く感覚をリアルに想像 10〜15分
ステップ4終了2分
頻度1回15〜20分、週3〜5日、6週間

自宅で週3回×6週続けたところ、歩行速度が40%向上したという報告があります(Dunsky et al., Arch Phys Med Rehabil 2008)。

動作観察療法

健康な人が歩いている・足踏みしている・椅子から立ち上がる動画(30秒〜1分)を観察し、その後に自分で真似します。

観察3分 → 自分で(または鏡で)模倣30秒 を1ブロックとし、6〜10ブロック/日。1回30分、週5日、4週間。

これらの認知的アプローチに、自主トレ時間の40〜50%を割く価値があります。


1日の自主トレスケジュール例(計30〜50分)

全部を毎日やる必要はありません。痙縮が強い日はストレッチと呼吸法だけでも十分です。

時間帯内容時間
朝(起床後)ふくらはぎストレッチ60秒×3 → 太もも裏ストレッチ30秒×2 → 内ももストレッチ30〜60秒×2 → 足首上げ10回×2 → 足を上げる(SLR)5回×2 → ブリッジ10回×1約10分
午前〜昼前座位での膝伸ばし10回×2 → 座位での足首上げ15回×2 → 骨盤の前後傾・左右移動 各10往復 → 座位リーチング各方向10回 → 立ち上がり5回×215〜20分
午後ミラーセラピー20分、または運動イメージ15分+動作観察10分(日替わり)20〜30分
夕方ふくらはぎストレッチ60秒×3 → 椅子に座ったまま足首を上に上げた姿勢を5分キープ(テレビを見ながら) → 可能ならうつ伏せ膝曲げ10回×15〜10分

週5〜6日を基本とし、週1日は完全休養にします。


即座に中止すべきサイン

以下が一つでも出たら、すぐに中止して5分休んでください。再開するときは強度を3割下げます。

サイン内容
連合反応の頻発健側の手や指に力みが入り続ける
痙縮の急激な悪化明らかにいつもより固い
クローヌス連発足首のビクビクが止まらない
痛みNRSで4以上
Borg RPE 14以上会話できないほどきつい
めまい・吐き気体調不良のサイン
血圧上昇収縮期血圧180超

やってはいけないこと(研究に基づく禁忌リスト)

NG理由
装具なし・見守りなしの歩行練習反張膝・内反尖足・分回し歩行が固定化される
最大努力の抵抗運動連合反応を呼び込み、血圧上昇で脳卒中再発リスクも上がる
息こらえ(Valsalva)予備ルートを興奮させる
健側だけで生活する習慣麻痺側の「使わない癖」が固定化
痙縮筋への速い受動伸張クローヌスを誘発する
低い椅子(43cm以下)からの立ち上がり伸展共同運動を強化する
立位でのふくらはぎストレッチ転倒と伸筋シナジーのリスク
片足立ちの長時間保持や階段昇降の繰り返し反張膝を学習させる

なぜ歩行練習を自主トレから外すのか

Ⅲ期の足首背屈不全と膝の制御不足のまま立ったり歩いたりを繰り返すと、こんな悪い動き方が運動学習として固定されてしまいます。

  • 反張膝(片麻痺の40〜70%に発生)
  • 内反尖足(ふくらはぎの痙縮)
  • 分回し歩行(足を外側に振り回す)

動物実験では、一度学習された望ましくない運動パターンは、後から正しいパターンに置き換えるのが非常に困難であることが示されています(Alaverdashvili & Whishaw, Behav Brain Res 2008)。

自主トレでは「動きの質と選択性」を稼ぎ、複雑な歩行は専門家の目がある対面リハに任せる——この分業が、Ⅲ期からⅣ期への移行確率を最大化する方法です。


ガイドラインから見ても妥当な戦略

  • 英国の脳卒中ガイドライン2023:反復課題練習を主たるアプローチとしつつ、自己管理プログラムは「セラピスト指導下の補助」と位置付け
  • AHA/ASA 2016:反復・課題指向・高強度運動を強く推奨
  • カナダ脳卒中ベストプラクティス2019/2025:立ち上がり訓練を生活期でも明示的に推奨
  • 日本の脳卒中治療ガイドライン2021改訂2025:課題指向型訓練、生活期の自己管理を推奨度Bで支持

「効果は訓練した動きにしか出ない」(特異性原則)が確認されており、467件のRCT(25,373名)から導かれた結論です(Veerbeek et al., PLoS ONE 2014)。歩行を訓練しなければ歩行は改善しません。しかし立位・立ち上がり・座位選択運動を反復すれば、それらが改善し、Ⅳ期移行後の真の歩行回復への近道になります


「もう変わらない」は科学的に正しくない

生活期(発症から6か月以降)でも、脳の変化する力は維持されています(Mang CS, Phys Ther 2013)。

英国の脳卒中ガイドライン2023は「脳卒中後いつの時点でもリハビリの効果が見込める」と明記しています(National Clinical Guideline for Stroke 2023)。

プラトー(停滞)は、脳の限界ではなく「神経の慣れ」の結果である——これが現代の理解です(Page et al., Arch Phys Med Rehabil 2004)。


Ⅲ期の矛盾は「分業」で解く

Ⅲ期の本質的な矛盾「動かさなければ廃用、動かしすぎれば共同運動と痙縮の固定化」は、役割を分けることで解決できます。

役割内容
自主トレの主役痙縮管理ストレッチ、座位/寝た姿勢での選択運動、体幹コントロール、条件設定した立ち上がり、ミラーセラピー/運動イメージ
対面リハに任せる立位歩行、複雑な課題指向歩行

自主トレでは「動きの量」より「動きの質と選択性」を稼ぐ。これがⅢ期からⅣ期への移行確率を最大化する論理的な答えです。

「強く動かす」ではなく「正しく動かす」、「多く動かす」ではなく「賢く休む」。この発想の転換ができるかどうかが、その後10年の歩行の質を決めます。

「今すぐ立てるようになる」よりも「6か月後に分離運動が出るようにする」ことに賭けるのが、現時点での最善の戦略です。


参考文献

  1. Li S, Francisco GE. “New insights into the pathophysiology of post-stroke spasticity.” Front Neurol 2019. Frontiers
  2. McPherson JG et al. “Progressive recruitment of contralesional cortico-reticulospinal pathways drives motor impairment post stroke.” J Physiol 2018. Wiley
  3. Pradines M, Gracies JM. “Guided self-rehabilitation contract vs conventional therapy in chronic stroke.” Neurorehabil Neural Repair 2019. Sage Journals
  4. Dorsch S, Ada L, Canning CG et al. “The strength of the ankle dorsiflexors has a significant contribution to walking speed.” Arch Phys Med Rehabil 2012. Archives of PMR
  5. Ng SS, Hui-Chan CW. “Transcutaneous electrical nerve stimulation combined with task-related training improves lower limb functions.” Stroke 2007. AHA Journals
  6. Thijs L, Verheyden G et al. “Trunk training for improving activities after stroke.” Cochrane Database Syst Rev 2023. Cochrane Library
  7. Dean CM, Shepherd RB. “Task-related training improves performance of seated reaching tasks after stroke.” Stroke 1997. AHA Journals
  8. Pollock A et al. “Interventions for improving sit-to-stand ability following stroke.” Cochrane Database Syst Rev 2014. Cochrane Library
  9. Thieme H et al. “Mirror therapy for improving motor function after stroke.” Cochrane Database Syst Rev 2018. Cochrane Library
  10. Dunsky A, Dickstein R et al. “Home-based motor imagery training for gait rehabilitation of people with chronic poststroke hemiparesis.” Arch Phys Med Rehabil 2008. Archives of PMR
  11. Harvey LA, Katalinic OM et al. “Stretch for the treatment and prevention of contractures.” Cochrane Database Syst Rev 2017. Cochrane Library
  12. Veerbeek JM et al. “What is the evidence for physical therapy poststroke?” PLoS ONE 2014. PLOS
  13. Lundström E et al. “Prevalence of disabling spasticity 1 year after first-ever stroke.” Eur J Neurol 2008 / J Rehabil Med 2010. Sage Journals
  14. Sommerfeld DK et al. “Spasticity after stroke: an overview of prevalence, test instruments and treatments.” Stroke 2011. AHA Journals
  15. Krakauer JW. “Motor learning: its relevance to stroke recovery and neurorehabilitation.” Curr Opin Neurol 2006. LWW Journals
  16. Alaverdashvili M, Whishaw IQ. “Motor cortex stroke impairs individual digit movement in skilled reaching of the rat.” Behav Brain Res 2008. ScienceDirect
  17. Mang CS et al. “Promoting neuroplasticity for motor rehabilitation after stroke.” Phys Ther 2013. Oxford Academic
  18. Page SB et al. “Reconsidering the motor recovery plateau in stroke rehabilitation.” Arch Phys Med Rehabil 2004. Archives of PMR
  19. Royal College of Physicians. National Clinical Guideline for Stroke 2023. strokeguideline.org
  20. Louie DR, Lim SB, Eng JJ. “The efficacy of lower extremity mirror therapy for improving balance, gait, and motor function poststroke.” Arch Phys Med Rehabil 2019. Archives of PMR

このページの内容は情報提供を目的としています。実際のリハビリ内容については、担当の理学療法士または医師にご相談ください。

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悠リハ
理学療法士/生活期脳卒中リハビリ専門。脳卒中専門病院の回復期リハビリ病棟と訪問リハビリで、臨床5年以上にわたり脳卒中の方とご家族に関わってきました。「退院してからが本当のスタート」という現場の実感をもとに、自宅でできる自主トレ、ご家族向けの介助の工夫、リハビリの考え方を発信しています。