安心してリハビリを進めていただくために、本記事では脳卒中のリハビリに関する自主トレを紹介していますが、これはすべての患者様に一律に適合するものではありません。

安全で効果的なリハビリのためには、個々の回復ステージに合わせた専門家の判断が不可欠です。本記事の内容を試される前に、担当の医療従事者へ内容をご共有、ご相談いただくようお願いします。

なお、実践に伴う体調不良などの責任は負いかねますのでご了承ください。

「日常生活が自分でできるようになった。だから、ここから先はもう変わらないだろう」

この時期、患者さんご本人もご家族も、こう思いがちです。でも実は生活ができるようになった瞬間こそが、最大の落とし穴なのです。

なぜなら「使える範囲」で生活が回ってしまうと、本来もっと回復できたはずの動きが、その手前で止まってしまうからです。

ブルンストロームⅣ期は、上肢リハビリの「中継点」です。ゴールではありません。Ⅴ期、Ⅵ期へと進むための大事な分かれ道。この記事では、なぜⅣ期が分かれ道なのか、何をすればその先へ進めるのかをお伝えします。

慢性期でも変わるという科学的事実があります。発症から平均1年半経った患者さん224人に3週間×90時間の集中訓練を行ったところ、運動機能の評価が大きく改善したという報告があります(Ward et al., JNNP 2019)。「もう変わらない」は、もう古い考え方です。


ブルンストロームⅣ期(上肢)ってどういう時期?

簡単に言うと「部分的に分離した動きができるようになる時期」です。

Ⅲ期までは、肩を上げると肘も曲がる、力むと指まで握ってしまう——という「決まったパターン」でしか動けませんでした。Ⅳ期になると、このパターンから少しずつ抜け出せます。

出てくる動き内容
前腕を返せる肘を体の横につけたまま、手のひらを上・下に向けられる
肘を伸ばして上げられる肘を伸ばしたまま、肩を前に上げられる
手を背中に回せる手を腰の後ろまで持っていける

つまり「ここの関節だけ動かす」というコントロールが、少しずつできるようになる時期です。同時に、痙縮(つっぱり)はⅢ期のピークから少し落ち着いてきます。


Ⅲ期からの大きな変化

項目Ⅲ期Ⅳ期
痙縮(つっぱり)ピーク期(最も強い)軽減期(少し落ち着く)
主な目標共同運動を使いながら離脱の準備共同運動から抜け出して、正しい動きを磨く
訓練の中心動かせる動きを増やす動きの「質」を高める
1日の目標反復回数100〜300回300回以上
最大の敵共同運動の固定化「できるようになって満足」してしまうこと

Ⅳ期最大の特徴は、「動かせる」から「正しく動かす」への大転換です。


Ⅳ期最大の落とし穴 「補助手で満足」の罠

「使える手」になった瞬間、思いがけない罠が待っています。

「学習性不使用」という現象があります。これは、できることがあるのに使わないでいるうちに、脳がその使い方を忘れてしまう現象です。

状態
Ⅲ期まで使えないから使えない
Ⅳ期使える範囲で生活が回るから、それ以上頑張らない

こんな状況に心当たりはありませんか?

場面起きていること
お皿片手で持てるから、両手で持つ訓練をしなくなった
ボタン結局健側でやるから、麻痺側でつまむ練習をしなくなった
健側で書けるから、麻痺側で鉛筆を持とうとしなくなった

これがⅣ期の停滞の正体です。**「日常生活が自立する → 患手の使用機会が減る → 脳が使い方を忘れる → さらに使わなくなる」**という悪循環が始まります。


「真の回復」と「代償」の決定的な違い

ここでとても大切な考え方をお伝えします。

日常生活ができるようになる方法は、実は2種類あります。

方法内容
真の回復脳卒中前と同じ動き方で達成麻痺側の肘を伸ばして前にリーチしてコップを取る
代償別の筋肉や関節で代わりに達成肩をすくめて体を前に傾けて手を届かせる

外から見ると同じ「コップを取れた」でも、脳の中では天と地ほどの違いがあります。代償で日常生活が「自立」してしまうと、その代償パターンが脳に固定されて、本当の回復の道が閉ざされてしまいます(Levin et al., NNR 2009)。

Ⅳ期で問うべきは「できるかどうか」ではなく「どう動かしているか」——この視点の転換が、最大の鍵です。


チェックすべき3つの代償動作

リーチ動作(前に手を伸ばす動き)では、よく出る3つの代償があります(Cirstea & Levin, Brain 2000)。

代償動作どう見えるか防ぎ方
体幹前傾体ごと前に倒れるタオルやベルトで椅子に軽く固定
肩甲骨の挙上肩がすくんで上がる鏡を見て「肩は下げる」と意識
肩外転肘が外側に開く肘を体に近づけたままリーチ

スマホで自分の動きを動画に撮り、月に1回チェックすることを強くおすすめします。鏡より動画のほうが、代償動作に気づきやすいです。


Ⅳ期の自主トレ4つの原則

原則内容ポイント
① 量を稼ぐ。ただし中身が命1日300回以上「肘を伸ばしながらリーチ」など分離運動を含む課題を
② 努力レベルは70%までBorg 11〜13(ややきつい)が上限力むほど共同運動が出て分離運動が崩れる
③ 三段構えミラーセラピー+身体練習+運動イメージ最も効率的に脳の回路を活性化
④ 月1回、進歩を測る数値で見える化続けやすくなる

原則①の補足 「中身」が命

研究では、回数だけを増やしても効果には頭打ちがあることが示されています(Lang et al., Ann Neurol 2016)。同じ300回でも、共同運動の繰り返しと分離運動の繰り返しでは、脳への効果がまったく違います。「肘を伸ばしながらリーチ」「肩を前に上げたまま前腕を返す」など、分離運動を含む課題を300回行うことが大切です。

原則③の根拠

「鏡を見ながら頭でも想像する → 実際に動かす」という流れが、最も効率的に脳の運動回路を活性化させることが複数のメタ分析でわかっています(Thieme et al., Cochrane 2018)。


最優先で取り組む「指を1本ずつ動かす」練習

Ⅳ期で最も難しく、最も大切な課題が「指を1本ずつ独立して動かせるようになる」ことです。

人間の手は、進化の中で「指を1本ずつ独立して動かす」能力を獲得しました。この能力は脳の特別なルート(皮質脊髄路)が担っており、脳卒中ではここが傷つきやすいのです(Lang & Schieber, J Neurophysiol 2003)。

指の独立性トレーニング(最重要)

項目内容
姿勢机に手を置き、手のひらを下に向ける
動作他の指は机に押さえたまま、人差し指だけをゆっくり持ち上げる → 10秒キープ → ゆっくり下ろす
順番人差し指 → 中指 → 薬指 → 小指
回数各指10回×3セット、1日2回

重要なポイント:

ポイント理由
鏡で「他の指が動いていないか」確認余計な連動を抑える
他の指が動くなら、上げる高さを下げる「他の指が動かないギリギリの高さ」で行う
高く上げるより、他の指が動かないことを優先質が大事

このトレーニングを18〜20回続けると、運動精度・手の機能・脳の活性化すべてが改善したという研究があります(Carey et al., Brain 2002)。

親指のリレー運動

項目内容
動作親指の先で、人差し指 → 中指 → 薬指 → 小指の先に順番に触れる
戻り小指 → 薬指 → 中指 → 人差し指の逆順で
回数10回×3セット
コツ急がず、正確さを大事に

握る→離すの段階的練習

「握る」より「離す」のほうが、Ⅳ期では難しい動作です。

段階課題目標
1スポンジを握って離す10回×3セット
2テニスボールを握って離す同上
3500mlペットボトル(空)を握って離す同上
4プラスチックコップを握って離す同上
5単3電池を握って離す同上
610円玉をつまんで離す同上

「離すとき」がポイント。物を「目標の円の中に静かに置く」ように、ゆっくり指を伸ばして離します。


力加減のトレーニング

「強く握る」だけでなく、「やさしく握る」も大事な訓練です。脳卒中後は「強く握る」が出やすく、「やさしく握る」が難しくなります。

課題やり方
紙コップに水を半分入れて運ぶ潰さずに移動できればOK
卵をつかんで別の場所に移す殻が割れない力加減で
マシュマロを優しくつまむ形が崩れないように
豆腐のパックを片手で持つ形が変わらないように

つまむ動作(ピンチ)のトレーニング

課題やり方回数
コインつまみ5円・10円玉を1枚ずつつまんで別の容器へ100枚
洗濯バサミ容器の縁に挟む、外す10個×3セット
ペグボード代用楊枝を発泡スチロールに刺していく20本×3セット
ボタン段階大ボタン(25mm)→中(18mm)→小(12mm)各5回×3セット

これらを組み合わせて、1日100〜200回のつまむ動作を目指します。


1日のスケジュール例(合計60〜90分)

朝・昼・夕に分散させるのがコツです。一気に60分やるより、20分×3回のほうが効果的です。

時間帯内容時間
朝(食事前)ストレッチ(肩・肘・手指)→ ミラーセラピー10分15分
朝(食事中)スプーン/箸で食事(肘を体につけて、肩をすくめずに)食事時間
午前指の独立性トレーニング → コインつまみ100枚 → 洗濯バサミ20分
午前(家事)洗濯物たたみ、皿洗い、調理補助で患手を「使う」
午後握る→離すの段階トレーニング → 力加減トレーニング20分
午後(家事)拭き掃除、ボタンの開閉、書字練習
夕方両手協調トレーニング(タオル絞り・紙折り)15分
ストレッチ → 運動イメージ(明日できる動作を想像)10分

家事や食事の中で患手を使う時間も含めれば、自然と300回以上の反復になります。


「補助手→協調手→実用手」への段階表

Ⅳ期の最大の目標は、患手の「役割」を一段引き上げることです。

段階できること訓練の例
補助手紙や本を押さえる食事中に皿を押さえる
質的補助手瓶のフタを押さえる、洗濯物を保持する健側でフタを回す間、瓶を押さえる
協調手缶のプルタブを開ける、タオルを絞る、衣類を畳む両手で協力する動作
実用手箸、ボタン、書字麻痺手だけで動作を完結

「今は補助手レベルだから、次は質的補助手を目指す」というふうに、現状の一段上を意識すると進歩が見えやすくなります。


集中ブロック 慢性期の停滞を破る方法

「最近、進歩が止まった気がする」と感じたら、集中ブロックを検討する価値があります。

慢性期の患者さん224名に対し、3週間で90時間の集中訓練を行ったところ、運動機能の評価指標が中央値で26点から37点まで改善しました(Ward et al., JNNP 2019)。中央値で発症から1年半経った方々です。

自宅で90時間は難しいですが、「土日は2時間集中する」「1週間は1日90分必ず確保する」など、意識的に量を増やす期間を作ることが大切です。普段の倍量を3週間続けると、停滞を破れることがあります。


やってはいけないこと

NG行動理由
重いダンベルでの肘曲げ伸ばし共同運動を再強化してしまう
強いゴムバンドでの握力訓練曲げる筋肉が固まる
体を前に倒してリーチを稼ぐ代償パターンが固定化
「とにかく回数」だけの訓練量が増えても質が伴わないと逆効果
痛みを我慢して肩を上げる肩を壊して訓練が止まる
麻痺側を肩から引っ張る介助肩の関節を傷める
「動けばOK」で動作を見直さない代償が脳に固定化
健側だけで日常生活を完結する使わない癖が再強化
食いしばる・息を止める痙縮が一気に強くなる
「もう変わらない」と訓練をやめる科学的に間違い

家族の役割は「待つこと」と「励ますこと」

ご家族にとって、最も大切な役割は「手伝いすぎないこと」です。

患者さんが時間をかけて自分でやろうとしているとき、つい手を出したくなります。でも、その「ちょっとした手助け」が、患者さんの脳の学習機会を奪ってしまうことがあります。

良い介助避けたい介助
待つすぐに代わりにやる
ヒントを出すだけ完全に手伝う
「ここをこう動かしてみて」と声をかける黙って代わりにやる
動画を撮って一緒に見る「ちゃんとやって」と急かす
月の進歩を一緒に喜ぶできないことを指摘する

研究でも、構造化された家族の関わりが、患者さんの予後を改善することが示されています(Vloothuis et al., Cochrane 2016/2019)。


進歩を測る方法

月に1回、以下のチェックをおすすめします。

評価項目測り方目安
10秒間のグーパー回数ストップウォッチで計測月ごとに記録
コインつまみ1分間何枚移せたか同上
タオルたたみの時間1枚たたむのに何秒同上
写真記録最大の手首の反り、最大の指の開き同条件で月初・月末
動画記録リーチ動作の動画(代償の確認)月1回
自己評価14の日常動作で患手をどれだけ使ったか月1回

3か月で1段階の進歩を目指すと、現実的な目標になります。


受診したほうがいいサイン

サイン疑い
動作中の肩の鋭い痛み関節・腱の損傷
患手の急な腫れ・赤み・熱CRPS、血栓
急に痙縮が強くなった
新たな麻痺やしびれ再発(即受診)
訓練後のめまいや頭痛
訓練が苦痛で気分が落ち込む脳卒中後うつ病

特に最後の「気分の落ち込み」は重要です。脳卒中後うつ病は約3人に1人に起こると報告されており(Hackett & Pickles, Int J Stroke 2014)、決して特別なことではありません。お早めに相談してください。


Ⅳ期は通過点。その先にⅤ期・Ⅵ期がある

Ⅳ期で大切なのは、「日常生活ができる」ことに満足しないこと。

日常生活が自立した時こそが、本当の意味で「質を磨く挑戦」の始まりです。

10年前まで、慢性期の患者さんには「もう変わらないから、できることでやりくりしよう」という諦めが普通でした。でも今、複数の研究が示しています——慢性期でも、適切な量と質の訓練で、ちゃんと変わります

ただし「自然回復」ではありません。「学習」によって変わるのです。だからこそ、訓練の中身が大事。回数だけでなく、どう動かしているかという質が大事。

ご家族には、「手伝うこと」よりも「待つこと、励ますこと、記録すること」をお願いします。

Ⅳ期はゴールではなく、Ⅴ期・Ⅵ期への中継点です。「どう動かしているか」を毎日問い続けることができれば、半年後、1年後の景色は、今とまったく違うものになっているはずです。


参考文献

  1. Ward NS et al. “Intensive upper limb neurorehabilitation in chronic stroke: outcomes from the Queen Square programme.” J Neurol Neurosurg Psychiatry 2019. JNNP
  2. Lang CE et al. “Dose response of task-specific upper limb training in people at least 6 months post stroke.” Ann Neurol 2016. Wiley
  3. Carey JR et al. “Analysis of fMRI and finger tracking training in subjects with chronic stroke.” Brain 2002. Oxford Academic
  4. Lang CE, Schieber MH. “Differential impairment of individuated finger movements in humans after damage to the motor cortex or the corticospinal tract.” J Neurophysiol 2003. Physiological Society
  5. Birkenmeier RL et al. “Translating animal doses of task-specific training to people with chronic stroke.” NNR 2010. Sage Journals
  6. Lohse KR et al. “Is more better? Using meta-data to explore dose-response relationships in stroke rehabilitation.” Stroke 2014. AHA Journals
  7. Levin MF et al. “What do motor ‘recovery’ and ‘compensation’ mean in patients following stroke?” NNR 2009. Sage Journals
  8. Cirstea MC, Levin MF. “Compensatory strategies for reaching in stroke.” Brain 2000. Oxford Academic
  9. Thieme H et al. “Mirror therapy for improving motor function after stroke.” Cochrane Database Syst Rev 2018. Cochrane Library
  10. Whitall J et al. “Repetitive bilateral arm training with rhythmic auditory cueing improves motor function in chronic hemiparetic stroke.” Stroke 2000. AHA Journals
  11. Winstein CJ et al. “Effect of a task-oriented rehabilitation program on upper extremity recovery following motor stroke (ICARE).” JAMA 2016. JAMA Network
  12. Wolf SL et al. “Effect of constraint-induced movement therapy on upper extremity function 3 to 9 months after stroke (EXCITE).” JAMA 2006. JAMA Network
  13. Vloothuis JDM et al. “Caregiver-mediated exercises for improving outcomes after stroke.” Cochrane 2016/2019. Cochrane Library
  14. Hackett ML, Pickles K. “Part I: Frequency of depression after stroke.” Int J Stroke 2014. Sage Journals
  15. Veerbeek JM et al. “What is the evidence for physical therapy poststroke? A systematic review and meta-analysis.” PLOS ONE 2014. PLOS
  16. Royal College of Physicians. National Clinical Guideline for Stroke 2023. strokeguideline.org
  17. Winstein CJ et al. “Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery (AHA/ASA).” Stroke 2016. AHA Journals
  18. 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]. 日本脳卒中学会

このページの内容は情報提供を目的としています。実際のリハビリ内容については、担当の理学療法士・作業療法士または医師にご相談ください。

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悠リハ
理学療法士/生活期脳卒中リハビリ専門。脳卒中専門病院の回復期リハビリ病棟と訪問リハビリで、臨床5年以上にわたり脳卒中の方とご家族に関わってきました。「退院してからが本当のスタート」という現場の実感をもとに、自宅でできる自主トレ、ご家族向けの介助の工夫、リハビリの考え方を発信しています。