片麻痺の体幹機能障害【総論】評価(TIS・TCT・FIST・PASS)からリハビリ・予後まで
結論から書きます。
片麻痺の体幹機能障害は「麻痺側の体幹が弱る問題」ではありません。
両側の体幹筋が機能低下を起こし、座位・立位バランス、移乗やADL、歩行、そして上肢操作の近位安定性まで広く規定する、回復の土台そのものの問題です。
発症早期の体幹機能はADL予後を強く予測し、体幹トレーニングは体幹機能とバランスを改善するというエビデンスも蓄積しています。本稿では、その全体像を解剖・神経機構・臨床的影響・評価・予後・治療の順で整理します。
体幹機能とは何か 【3つの軸で捉える】
体幹機能は「座って姿勢を保てるか」だけの話ではありません。臨床で扱う体幹機能は、次の3つの軸で整理すると見通しがよくなります。
1. 安定性(stability)
脊柱・胸郭・骨盤というセグメントを、重力や外乱に抗して保持する能力です。深部のローカル筋——腹横筋、多裂筋、横隔膜、骨盤底筋からなるいわゆるインナーユニットが、四肢の運動に先立って脊柱を分節的に固定します。これが弱いと、土台が定まらないまま手足を動かすことになります。
2. 可動性・選択的運動(selective movement)
体幹は固めるだけでなく、上部体幹と下部体幹を分離して動かせること(体幹の選択的回旋・側屈)が重要です。寝返り、起き上がり、リーチ、歩行時の骨盤と肩甲帯の逆相回旋など、ほぼすべての機能動作がこの分離運動に依存します。片麻痺では、この分離が失われ体幹が一塊(en bloc)で動く様子がよく観察されます。
3. 予測的姿勢調節(anticipatory postural adjustments:APAs)
上肢のリーチや立ち上がりなど、これから起こす運動による重心移動を「先読み」して、体幹筋が運動開始前に活動する仕組みです。フィードフォワード制御であり、転倒を未然に防ぐ姿勢制御の中核を担います。脳卒中ではこのAPAsのタイミングと大きさが障害されることが報告されています。
つまり体幹機能とは、固める力・分けて動かす力・先読みして備える力の総体です。評価でも治療でも、この3軸のどこが崩れているかを意識すると介入の的が絞れます。
なぜ片麻痺で体幹機能が障害されるのか
「体幹筋は両側支配だから、片側の脳病変では保たれる」——この通説は臨床実感と合いません。実際には麻痺側だけでなく非麻痺側の体幹筋も筋力・活動が低下します。ここを誤解したまま評価すると、体幹機能障害を過小評価してしまいます。
【両側の体幹筋の弱化】筋力研究の知見
Karatasら(2004)は、一側半球の脳卒中患者38名と健常者40名で等尺性・等速性の体幹屈曲/伸展筋力を比較し、脳卒中患者では体幹筋力が有意に低下し、それがバランスと機能的障害度に関連することを示しました[5]。表面筋電図の研究でも、座位前方リーチ時に麻痺側の腹直筋活動が低下し、麻痺側脊柱起立筋が代償的に過活動を示すなど、左右非対称かつ全体的な活動異常が報告されています。重要なのは、低下が麻痺側に限局しないという点です。
【神経機構】 皮質脊髄路だけでは説明できない
体幹・近位筋の制御は皮質脊髄路だけでなく、網様体脊髄路(reticulospinal tract)をはじめとする両側性・腹内側系の下行路に強く依存します。これらの経路は姿勢制御や粗大運動、全身性のAPAsを担うとされ、体幹が機能的に「両側性に」コントロールされる神経基盤になっています。一側の皮質や皮質下が損傷すると、この両側性制御のネットワーク全体が影響を受けるため、非麻痺側にも機能低下が波及すると理解できます。一方で網様体脊髄路は損傷後の可塑性が高く、機能回復・代償の基盤としても注目されており、体幹アプローチが回復を後押ししうる神経学的な根拠の一つになります。
【pusher現象との関係】
体幹の正中認知が崩れると、非麻痺側上下肢で麻痺側へ押し返すpusher現象(contraversive pushing / lateropulsion)が生じることがあります。これは垂直性の認知障害と体幹の姿勢制御障害が複合した病態で、座位・立位の介助量を大きく増やします。体幹機能障害を見るうえで、筋力やバランスだけでなく「身体が垂直をどう認識しているか」という視点も欠かせません。
体幹機能障害が臨床にもたらす影響
体幹は動作の出発点にあるため、その障害は連鎖的に広がります。臨床で押さえるべき影響を整理します。
座位・立位バランスの低下
静的座位保持から、リーチや方向転換を伴う動的バランスまで広く低下します。動的座位バランスの障害は、転倒リスクと直結します。
移乗・ADL自立度の低下
立ち上がりや移乗は、体幹の前傾と支持基底面内への重心移動が前提です。体幹が支えられないと、これらの基本動作が成立せず、結果として食事・整容・更衣など多くのADLが介助レベルにとどまります。
歩行能力
歩行では立脚期の側方安定性と、骨盤・肩甲帯の逆相回旋が必要です。体幹機能は歩行自立度の重要な規定因子であり、後述するように予後予測因子としても機能します。
上肢機能の近位安定性
手を遠くへ伸ばす、物を操作するといった上肢の遠位機能は、体幹という近位の安定土台があって初めて発揮されます。体幹が不安定なままでは、せっかくの上肢の随意性を動作に変換できません。上肢リハの効果を引き出すうえでも体幹は前提条件です。
【体幹機能の評価】代表的な4尺度
体幹機能は「なんとなく座れている」では評価になりません。標準化された尺度を使い分けることで、重症度の層別化、経時的変化の追跡、予後予測が可能になります。代表的な4つを押さえておきます。
TIS(Trunk Impairment Scale)
Verheydenら(2004)が開発した、座位での体幹運動機能に特化した17項目の尺度です
。静的座位バランス、動的座位バランス、協調性(coordination)の3サブスケールで構成され、合計0〜23点で評価します。Barthel Index(r=0.86)やTCT(r=0.83)と高い相関を示し、臨床・研究の双方で体幹の「機能障害」を捉える標準的ツールとして広く使われています。上部/下部体幹の分離運動を直接評価できる点が、前述の「選択的運動」の軸と対応します。
TCT(Trunk Control Test)
CollinとWade(1990)による簡便な4項目テストです
。「弱い側への寝返り」「強い側への寝返り」「臥位からの起き上がり」「端座位保持」を各0/12/25点で採点し、合計0〜100点とします。原著では18週時点で50点以上が歩行再獲得と関連し、早期の予後予測に有用であることが示されました。短時間で実施でき、急性期のスクリーニングに向きます。
FIST(Function in Sitting Test)
Gormanら(2010)が急性期脳卒中を対象に開発した、座位バランスに特化した14項目のベッドサイド評価です
。感覚・運動・予測的(proactive)・反応的(reactive)・定常的(steady state)バランスといった多面的な座位バランス要素を、外乱や課題を通して評価します。座位レベルでの細やかな変化を拾えるため、座位が不安定な時期の経過追跡に適します。
PASS(Postural Assessment Scale for Stroke patients)
Benaimら(1999)が、Fugl-Meyer評価のバランス項目を改変して作成した姿勢制御の尺度です
。臥位・座位・立位の姿勢を「保持できるか(maintaining)」と「変換できるか(changing)」の2セクション・12項目で評価し、合計0〜36点とします。発症後3か月までの姿勢制御を評価する最も妥当性・信頼性の高い尺度の一つとされ、座位だけでなく立位までを含めて姿勢制御を俯瞰できます。
使い分けの目安としては、座位が不安定な急性期はFISTやTCT、体幹の選択的運動まで踏み込みたい回復期はTIS、姿勢制御を立位まで含めて追いたい場面はPASS、というように対象時期と評価したい構成要素から選ぶと整理しやすくなります。
予後予測因子としての体幹機能
体幹機能を早期に評価する価値は、それが将来のADLや歩行を予測するからです。ここはセラピストが家族や多職種に「なぜ体幹を診るのか」を説明するときの根拠にもなります。
Hsiehら(2002)は脳卒中患者169名を対象に、PASSの体幹制御項目(PASS-TC)が、その後の包括的ADL機能の分散の45%を説明し、Fugl-Meyer運動スコアやBarthel Indexよりもわずかに高い予測力を示したと報告しています[6]。つまり発症早期の体幹制御は、運動麻痺の重症度そのものよりもADL予後をよく言い当てるということです。著者らは早期からの体幹制御の評価と管理を重視すべきと結論づけています。
TCTの原著でも、早期スコアが歩行再獲得を予測しており
、体幹機能が「歩けるようになるか」を見通す指標として早くから注目されてきたことがわかります。体幹は予後の鏡である、と捉えておくと臨床判断の軸がぶれません。
リハビリテーションの方向性とエビデンス
では体幹に介入する価値はあるのか。近年の系統的レビューは、体幹トレーニングの効果を支持しています。
Van Criekingeら(2019)の系統的レビュー・メタ解析は、22のRCT・394名を統合し、体幹トレーニング(コアスタビリティ、リーチング、重心移動、PNFなど)が体幹制御・座位/立位バランス・移動能力を改善するという強いエビデンスを示しました[7]。
さらにCochraneレビュー(Thijsら, 2023)は68試験・2585名を解析し、体幹トレーニングが体幹機能と課題遂行(activity)を改善することを示しました。一方で、日常生活全般のADLやQOLへの効果については結論が不明確であるとも報告しています[8]。エビデンスの強みと限界を正確に把握しておくことが、過大な期待を避けつつ介入を正当化するうえで大切です。
臨床的には、次の方向性が支持されます。座位という安定した環境で、体幹の選択的運動(上部/下部の分離、回旋・側屈)を引き出すこと。リーチや重心移動を用いた課題指向型の練習で、APAsを含む動的な姿勢制御を賦活すること。そして、上肢・歩行練習の土台として体幹を整え、機能を動作へ橋渡しすることです。固めるだけの安定化に終始せず、3つの軸——安定性・選択的運動・予測的姿勢調節——をバランスよく狙うのがポイントです。
まとめ
片麻痺の体幹機能障害は、両側性の神経機構を背景に、麻痺側・非麻痺側の双方で生じる広範な問題です。安定性・選択的運動・予測的姿勢調節という3軸で捉え、TIS・TCT・FIST・PASSを対象時期に応じて使い分けることで、重症度と変化を可視化できます。早期の体幹機能はADL・歩行予後を強く予測し、体幹トレーニングは体幹機能とバランスを改善するエビデンスがあります。手足の麻痺に目が向きがちな時期こそ、回復の土台である体幹を評価し、介入の射程に入れておく——これが総論としての要点です。
よくある質問(FAQ)
Q. 体幹筋は両側支配だから、片麻痺では問題にならないのでは?
いいえ。体幹・近位筋は網様体脊髄路など両側性の経路に依存して制御されているため、一側の脳損傷でもネットワーク全体が影響を受け、麻痺側だけでなく非麻痺側の体幹筋力・活動も低下することが報告されています[5]。
Q. 急性期と回復期で評価尺度はどう選べばよいですか?
座位が不安定な急性期はFISTやTCTでスクリーニングし、体幹の選択的運動まで評価したい回復期はTIS、姿勢制御を立位まで含めて追う場合はPASS、というように対象時期と評価したい構成要素から選ぶのが実用的です

。
Q. 体幹トレーニングはADL自立まで改善しますか?
体幹機能やバランス、課題遂行の改善は系統的レビューで支持されています[7]。ただしCochraneレビューでは、日常生活全般のADLやQOLへの効果は現時点で結論が不明確とされています[8]。体幹は土台として重要ですが、ADL改善には課題特異的な練習との組み合わせが必要と考えるのが妥当です。
参考文献
- Verheyden G, Nieuwboer A, Mertin J, Preger R, Kiekens C, De Weerdt W. The Trunk Impairment Scale: a new tool to measure motor impairment of the trunk after stroke. Clinical Rehabilitation. 2004;18(3):326-334.
- Collin C, Wade D. Assessing motor impairment after stroke: a pilot reliability study. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry. 1990;53(7):576-579.
- Gorman SL, Radtka S, Melnick ME, Abrams GM, Byl NN. Development and validation of the Function In Sitting Test in adults with acute stroke. Journal of Neurologic Physical Therapy. 2010;34(3):150-160.
- Benaim C, Pérennou DA, Villy J, Rousseaux M, Pelissier JY. Validation of a standardized assessment of postural control in stroke patients: the Postural Assessment Scale for Stroke Patients (PASS). Stroke. 1999;30(9):1862-1868.
- Karatas M, Cetin N, Bayramoglu M, Dilek A. Trunk muscle strength in relation to balance and functional disability in unihemispheric stroke patients. American Journal of Physical Medicine & Rehabilitation. 2004;83(2):81-87.
- Hsieh CL, Sheu CF, Hsueh IP, Wang CH. Trunk control as an early predictor of comprehensive activities of daily living function in stroke patients. Stroke. 2002;33(11):2626-2630.
- Van Criekinge T, Truijen S, Schröder J, Maebe Z, Blanckaert K, van der Waal C, Vink M, Saeys W. The effectiveness of trunk training on trunk control, sitting and standing balance and mobility post-stroke: a systematic review and meta-analysis. Clinical Rehabilitation. 2019;33(6):992-1002.
- Thijs L, Voets E, Denissen S, Mehrholz J, Elsner B, Lemmens R, Verheyden GSAF. Trunk training following stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023;3:CD013712.
※本記事は新人・中堅セラピスト向けの学習・知識共有を目的とした総論です。個別の臨床判断は、対象者の状態と各施設のプロトコルに基づいて行ってください。
