脳卒中の筋トレで痙縮が悪化するのではと心配されるご家族は多いです。結論からお伝えすると、その方に合った負荷で正しく行うかぎり、筋トレで痙縮が悪化することはありません。むしろ筋力をつけたほうが体は動かしやすくなります。理由を順番にお伝えします。

先生、筋トレをすると、もっと手が突っ張ってしまうんじゃないですか。

リハビリ室でご家族からよく出る質問です。

麻痺した側の手足が、すでにかたく突っ張っています。その様子を見ているご家族にとって、筋トレという言葉はどこか怖い。力を入れる練習をしたら、あの硬さがもっとひどくなるのではと身構えてしまいます。

そう感じるのは自然なことです。

知っておいていただきたいのは、その不安がご家族だけのものではないということ。わたしたち理学療法士の間でも、昔は同じように考えていました。

麻痺した手足に筋トレをさせてはいけない。力を入れさせると痙縮が強くなる。そういう教えが長い間の常識でした。

ところが、この二十年ほどで常識は大きく変わりました。

今では、やり方さえ正しければ筋トレで痙縮は悪化しません。むしろ筋力をつけたほうが体は動かしやすくなります。研究を重ねて、そう考えられるようになりました。

この先、痙縮とは何か、なぜ昔は筋トレが禁じられていたのか、いまの研究は何を見て考えを変えたのか、自宅で何に気をつければよいのか、順番にお伝えします。

読み終えるころには、痙縮と筋トレについて必要以上に怖がらずにすむはずです。

脳卒中の痙縮とは何か

筋トレの話に入る前に、痙縮そのものを少しだけ説明させてください。

麻痺した手足がかたく突っ張る状態を、専門用語で痙縮と呼びます。読み方はけいしゅくです。

本人がわざと力を入れているわけではありません。脳から筋肉への命令の通り道が脳卒中で傷つき、筋肉が勝手に緊張してしまいます。

朝起きると、腕が胸の前で曲がりこんでいる。足が突っ張っている。力を抜いてくださいと言われても、なかなか抜けない。関節を伸ばそうとすると、ぐっと抵抗がある。こういった様子が痙縮です。

ここで大事なことをお伝えします。かたく感じる原因はひとつではありません。

ひとつは、いま説明した神経の命令による緊張です。これが本来の意味での痙縮にあたります。

もうひとつは、筋肉や腱そのものがかたくなる変化です。動かさない時間が長く続くと、筋肉はゴムのように縮んで伸びにくくなります。

外から触っただけでは、このふたつを区別しづらいです。僕たちセラピストであれば判断できますが、普通はどちらもただ硬いとしか感じられない。

この区別のつきにくさが、このあとの話で大きな意味を持ってきます。覚えておいてください。

昔、なぜ片麻痺の筋トレは禁じられていたのか

かつて、麻痺した手足への筋トレはやってはいけないものとされていました。

理由は現場での観察にあります。

麻痺した手で、ぐっと強く力を入れようとする。すると肘が曲がり、肩がすくみ、手首が内側にねじれる。力を入れるほど、体ぜんたいが突っ張った形に固まっていきます。

この様子を見ていたセラピストたちは、強く力を入れる練習は痙縮を強める。だから筋トレはさせないほうがいいと考えました。

当時としては理にかなった判断でした。目の前で起きていることを正直に受け止めた結果です。

ただ、見落とされていたことがありました。

突っ張った形に固まったのは、力を入れたこと自体が原因ではありません。本人の力では支えきれないほど重すぎる負荷をかけていたことが原因でした。

持てない重さを無理に持とうとすれば、誰でも体全体に力が入ります。麻痺のある体では、それがもっと極端な形であらわれます。その様子を見て、筋トレそのものが悪いと考えてしまいました。

ここに昔の常識のすれ違いがありました。

筋トレで痙縮は悪化しないと研究が示している

2000年代に入って、研究の流れが変わりました。

世界中で、麻痺した手足に筋トレを行う実験が重ねられ、共通した結論が見えてきました。

正しいやり方で行えば、筋トレで痙縮は悪化しません。そして筋力はちゃんとついていきます。

この結論は日本の脳卒中治療のガイドラインにも反映され、麻痺した手足への筋トレは今では強く勧められる方法のひとつになっています。

ここでご家族に知っておいていただきたいことがあります。研究で言う筋トレは、ジムでやるような重いウェイトのことではありません。

研究で行われているのは、その人が支えられる範囲の軽い負荷です。ただ力を入れる練習ではなく、日常の動作につながる練習です。

立ち上がる。コップをつかむ。段差をまたぐ。こういった生活の動きそのものを、少しずつ負荷をかけながら繰り返します。これが研究で効果があるとされている筋トレの正体です。

重さで体をいじめるのではなく、できる動きを丁寧に育てていく。そのイメージがいちばん近いです。

分かっていないこともある

ここまで、筋トレは怖くないという話をしてきました。

ただ、正直なところもお伝えします。この分野にはまだはっきりわかっていないことが残っています。

ひとつは、痙縮の測り方の問題です。

リハビリの現場では、関節を動かしたときの抵抗を手で感じて痙縮の強さを評価します。ところが、この方法ではさきほどの二種類の硬さを区別できません。

神経の命令によるかたさなのか、筋肉そのものが縮んだかたさなのか。手で感じる抵抗だけでは見分けがつかない。

痙縮が変わった変わらないという議論そのものが、あいまいな土台の上で行われている面があります。研究の結論が割れるのも、ここに一因があります。

もうひとつは、研究の対象になっている人の偏りです。

筋トレの効果を調べた研究の多くは、ある程度自分で手足を動かせる方を対象にしています。逆に、ほとんど力が入らない重い麻痺の方は、対象から外れていることが多い。

ですから、筋トレが安全だという結論が、どの段階の方にもそのまま当てはまるとは限りません。お一人おひとりの状態で答えは変わってきます。

このあたりは担当の理学療法士がいちばんよく見ています。だからこそ、自己流ではなく担当者と相談しながら進めることが大切になります。

自宅で片麻痺の筋トレをするとき気をつけたいこと

最後に、自宅で関わるときに気をつけたいことを三つお伝えします。

一つ目は、本人が支えられる範囲で行うことです。

力を入れたときに、麻痺した手足以外の場所まで突っ張ってくる。顔をしかめる、息を止める、反対側の手に力が入る。こういった様子が出たら、負荷が重すぎるサインです。

そのときは回数を減らすか、動きをやさしくします。頑張らせることより、無理なくできる範囲を守るほうが大切です。

二つ目は、力を入れる練習だけでなく、ストレッチで伸ばす時間も大切にすることです。

筋肉は使うだけでなく、ゆっくり伸ばすことでしなやかさを保ちます。ストレッチや、関節をやさしく動かす時間を筋トレとセットで考えてください。

具体的なやり方は、担当の理学療法士に自宅でできる範囲を教えてもらうのがいちばんです。

三つ目は、自己流で負荷を上げないことです。

筋トレが怖くないとわかると、今度はもっとやらせたくなります。ご家族の熱心さはありがたいものです。

ただ、ちょうどよい負荷は、その方の段階でまったく違います。良かれと思って負荷を上げたことが、痛みや疲れにつながることもあります。

何をどのくらいやればよいか。ここは必ず担当者に相談しながら決めてください。

まとめ 脳卒中の筋トレと痙縮の関係

筋トレをすると痙縮が悪化する。長いあいだ信じられてきた考えでした。

でも今では、正しいやり方で行えば痙縮を悪化させずに筋力をつけられるとわかっています。研究で言う筋トレとは、重いものを持つことではなく、できる動きを丁寧に育てることです。

一方で、痙縮の測り方や対象になる方の偏りといった、まだはっきりしないところも残っています。だからこそ、お一人おひとりに合ったやり方を担当者と相談しながら見つけていくことが大切です。

次の通院で、担当の理学療法士にこう聞いてみてください。

自宅でできる筋トレのようなものはありますか。力を入れる練習とストレッチは、どんなふうに組み合わせればいいですか。うちの家族の今の段階だと、どこまでやって大丈夫ですか。

筋トレへの怖さがほどけると、自宅での関わりがきっと少し前向きになります。

この記事は、神経リハビリテーションを専門とする現役の理学療法士が、生活期の脳卒中のご家族に向けて書いています。

回復段階による注意点

補足すると、共同運動(シナジー)や連合反応が優位な段階で強く力を入れると、麻痺側に異常な筋活動(屈曲共同運動など)が引き出されやすいことが研究で示されています(Sukal 2007)。負荷が高いほどこの傾向は強まり、脳の損傷後に脳幹由来の経路への依存が高まることが関与すると考えられています。だからこそ、この段階では「とにかく力を入れる」のではなく、異常なパターンを誘発しない負荷や運動課題を選ぶことが特に大切です。一方で、適切に行えば筋力増強は全体として痙縮を悪化させず、機能の改善につながることも報告されています(Ada 2006、Chacon-Barba 2024)。

出典・参考文献

本記事は以下の資料を参考に作成しています。
・Ada L, Dorsch S, Canning CG. Strengthening interventions increase strength and improve activity after stroke: a systematic review. Australian Journal of Physiotherapy. 2006;52(4):241-248.
・日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会 編『脳卒中治療ガイドライン2021』協和企画, 2021.
・Sukal TM, Ellis MD, Dewald JPA. Shoulder abduction-induced reductions in reaching work area following hemiparetic stroke: neuroscientific implications. Experimental Brain Research. 2007;183(2):215-223.
・Ada L, O’Dwyer NJ. Do associated reactions in the upper limb after stroke contribute to contracture formation? Clinical Rehabilitation. 2001;15(2):186-194.
・Chacon-Barba JC, Moral-Munoz JA, De Miguel-Rubio A, Lucena-Anton D. Effects of Resistance Training on Spasticity in People with Stroke: A Systematic Review. Brain Sciences. 2024;14(1):57.

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悠リハ
理学療法士/生活期脳卒中リハビリ専門。脳卒中専門病院の回復期リハビリ病棟と訪問リハビリで、臨床5年以上にわたり脳卒中の方とご家族に関わってきました。「退院してからが本当のスタート」という現場の実感をもとに、自宅でできる自主トレ、ご家族向けの介助の工夫、リハビリの考え方を発信しています。