【移乗介助のコツ】ベッドと車椅子の安全な移り方を理学療法士が解説
ベッドから車椅子へ。車椅子からトイレへ。脳卒中で麻痺が残ると、この「移る」動作(移乗)が、ご家族にとって一番の不安になりがちです。
支えきれずにヒヤッとした。自分の腰を痛めそうになった。そんな経験をされた方も多いと思います。
移乗は、力ではなくコツで安全になります。この記事では、ベッドと車椅子の間を安全に移るためのポイントを、現役の理学療法士の視点でお伝えします。
移乗介助で大切な3つの基本
一つ目は、健側(けんそく=麻痺していない側)を活かすことです。麻痺した側で踏ん張るのは大変です。移る方向に健側がくるようにすると、ご本人の力を使え、介助もぐっと楽になります。
二つ目は、介助する人が自分の腰を守ることです。背中を丸めて持ち上げると腰を痛めます。足を前後に開き、膝を軽く曲げ、ご本人に体を近づけて、お辞儀をするように支えます。「持ち上げる」より「重心を前へ動かす」イメージです。
三つ目は、環境を整えることです。車椅子のブレーキは必ずかける。フットレスト(足を乗せる板)は上げるか外す。車椅子はご本人の健側に、ベッドと斜め(30度くらい)に置く。これだけで安全性が大きく変わります。
ベッドから車椅子へ移る手順
- 準備:車椅子を健側に斜めに置き、ブレーキをかけ、フットレストを上げます。
- 浅く座る:ベッドの端に、足の裏がしっかり床につく深さで座ってもらいます。
- 足を引く:両足を膝より少し手前に引きます。立ち上がりやすくなります。
- 前傾する:「鼻が膝の前に出るくらい」深くお辞儀をしてもらいます。お尻が自然に浮きます。
- 立ち上がる:腰やズボンのベルト周りを支え、一緒に前へ。脇の下を持ち上げてはいけません。
- 向きを変える:健側の足を軸に、車椅子の方へ体の向きを変えます。
- 座る:座面を確かめながら、もう一度お辞儀をするようにゆっくり腰を下ろします。
大切なのは、一つひとつ「せーの」と声をかけ、ご本人のタイミングに合わせることです。
車椅子からベッドへ戻るとき
基本は逆の手順です。このときも、移る先のベッドが健側にくるよう、車椅子の向きを決めます。「お辞儀して、前へ、向きを変えて、お辞儀して座る」という流れは同じです。
やってはいけないこと・危険なサイン
脇の下を持って引き上げるのは避けてください。麻痺側の肩は外れやすく(亜脱臼)、痛みの原因になります。腕を引っ張るのもいけません。
ご本人が極端に前のめりになる、膝が折れる、息を止めて全身に力が入る。こうしたサインが出たら、負担が大きすぎます。無理をせず、いったん中断してください。
支えきれないと感じるなら、二人で介助する、リフトや移乗ボードを使うという選択も大切です。一人で頑張りすぎないでください。
福祉用具を活用する
移乗は道具で安全になります。介護保険を使えば、ベッド柵や手すり、移乗用のスライディングボードなどをレンタル・購入できる場合があります。何が合うかは、担当のケアマネジャーや理学療法士に相談してみてください。
まとめ
移乗は、力比べではありません。健側を活かす、自分の腰を守る、環境を整える。この3つを押さえるだけで、ご本人にもご家族にも安全になります。
ただし、ちょうどよい支え方は、その方の麻痺の程度や体格でまったく変わります。実際のやり方は、次の訪問やリハビリのときに、担当の理学療法士に「うちの場合はどう支えればいいですか」と聞いてみてください。その一回が、毎日の安心につながります。
この記事は、神経リハビリテーションを専門とする現役の理学療法士が、生活期の脳卒中のご家族に向けて書いています。
